当院に勤務していた医師に対し不起訴処分が下されたことについて

1 当院に勤務していた医師に対する不起訴処分が下されたこと

 先般、東京地方検察庁立川支部が、業務上堕胎の疑いで当院に勤務していた医師2名が告発されていた件につき、不起訴処分を下した旨の報道を、一部マスメディアが報じました。

担当医師らに対する告発は、当院で人工妊娠中絶手術(以下、「中絶手術」といいます。)を受けた6日後に、うっ血性心不全のため急死された女性患者(以下「本件女性患者」といいます。)の夫及び東京都(小池百合子東京都知事)が行ったものでしたが、不起訴処分の具体的な理由については当院は存じません。

2 担当医師が産婦人科専門医であり、指導医であったこと

 既に繰り返しプレスリリースをしてきたところではありますが、本件女性患者の中絶手術を担当した医師(以下「担当医師」といいます。)は、母体保護法14条1項本文が定める「都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定」を受けていませんでした。

他方で、現在においてもマスメディアでは、「無資格の医師による中絶手術が行われた」等、あたかも医師免許を持たない者が中絶手術を担当したかのような報道をしていますが、担当医師は産婦人科専門医であり、指導医でした。

3 中絶手術と本件女性患者の死亡との因果関係は存在しないこと

 本件がマスメディアに取り上げられるより前に、行政解剖により、中絶手術と女性患者の死亡との因果関係は否定されていました。本件女性患者の夫や東京都は、そのことを認識していたので、「業務上堕胎致死罪」ではなく「業務上堕胎罪」で担当医師を刑事告発したものと思われます。
 しかしながら、当時、本件をスクープ報道したフジテレビをはじめとする各マスメディアは、本件女性患者の生前の写真を前面に出したり、誤解を招く内容のテロップを表示したりして、いかにも中絶手術の結果本件女性患者が死亡したかのような報道を繰り返しました。

 厚生労働省が公表している統計(人口動態調査)によると、少なくとも、2011年から本件が報道された2016年までの間に、中絶手術を原因とする死亡事故が発生した件数は0件です。したがって、中絶手術が患者の死の結果を招くことは、一般的には稀なことと言えます(ただし、一般論として、手術に患者の生命・身体の危険が伴うことを否定する趣旨ではありません。)。

また、日本産婦人科学会が発行する「日産婦誌60巻1号」の「子宮内容除去術」の項(「子宮内容除去術」でインターネット検索すると、該当するウェブサイトが検索結果に表示されます。)の記載からも明らかなとおり、妊娠初期の中絶手術や流産手術で用いられている「子宮内容除去術」は、産婦人科医にとって必須の手技であり、研修期間中に習得すべきものです。そのため、指定医師であるか否かは、担当医師の中絶手術の技能の有無とは直接関係しません。したがって、客観的事実関係に照らしても、中絶手術と本件女性患者の死亡との間の因果関係の存在は、極めて疑わしいものであったと言えます。

 それにもかかわらず、マスメディアは、視聴者が本件の本質を正確に理解するために必須であるこれらの事項について、一切説明をしませんでした。それどころか、指定医師であるか否かが中絶手術の技能の有無に決定的な影響を及ぼし、指定医師でない者が中絶手術をしたから本件女性患者が死亡したかのような報道を繰り返しました。

これらの報道により、当院や担当医師の社会的評価は著しく低下しました。そのため、既に公表していますとおり、当院を運営する医療法人財団緑生会は、フジテレビに対し、名誉棄損に基づく民事訴訟を提起しています(東京地方裁判所平成29年(ワ)第36244号)。なお、同民事訴訟手続きは現在、争点整理手続(弁論準備手続)に付され、当事者双方の主張を踏まえた争点整理が行われています。結審までには、まだ相応の時間を要する見込みです。

4 おわりに

 担当医師らの不起訴処分を報じたインターネットニュースのコメント欄等を見ると、現在においても、中絶手術により本件女性患者が死亡したことを前提に、同処分が不当であるとの意見を述べている方が散見されます。このことは、いかに当時の報道の影響が強いものであったかを物語っています。

報道によると、本件女性患者の夫は、不起訴処分を不服として、検察審査会に審査の申立てをすることを検討しているとのことです。そのため、今後も本件に関する報道が定期的にされることが予想されます。
当院としては、今後も報道により世間がミスリードされることの無いよう、本件女性患者に対する守秘義務に反しない限りにおいて、事実に基づく情報を適時に発信していく所存です。

平成30年6月18日
医療法人財団緑生会 水口病院

水口病院

吉祥寺 水口病院